閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

032 分割の問題

 普段から比較的、持ち出す物が多い。多くなつて仕舞ふ。惡癖ですね、これは。

 手帖にペン。

 財布。

 小銭入れ。

 煙草とライター。

 ポケットティッシュ

 ハンケチ。

 スマートフォン

 コンパクト・デジタルカメラ

 文庫本。

 主なところを挙げるとこれくらゐになつて、主でないのまでは考へてゐない。これが旅行などの場合だと、着替へや充電器やケーブルや買ひ物袋が加つて、更に荷物が増える。困る。それでかういふ荷物をどう持ち運ぶかといふのが問題になるわけで、出來るだけ大袈裟にはしたくない。ならば大振りのデイパックに詰めればよささうなものだが、それだと重くなる。トートバッグでも事情は変らず、要はひとつの鞄が重くなるのも避けたくて、そこの貴女、我が儘なのねえと笑つてはいけません。我われに“同行の男性に持たせる”といふ撰択肢はないのだから、何とか知恵を出さねばならない。

 知恵と云つても基本は荷物を分けることで、では分散させればいいのかと云へばさうとは限らない。小分けが過ぎると、どこに何があるか混乱して、必要なものを取り出す時、結局は全部の鞄を開ける破目になりかねず、不恰好である。不恰好は我慢したとしても、詰めたものを失くす恐れがあつて、そつちは我慢出來かねる。そんなに間抜けなのかと云はれたら、さういふ経験があるのですと白状しておかう。それで辿り着いたのは中くらゐのデイパック、トートバッグにウェイストポーチの組合せ。前二者に入れる荷物はそのままでなく、小ぶりのポーチ類を使つてある程度分ける。デイパックには利用頻度の低いもの(たとへば着替へ)、或は重いもの(たとへば充電器)を入れる。トートバッグには使ひさうなものや呑みもの(罐麦酒や葡萄酒の小壜)やつまみ。ウェイストポーチには財布に煙草にスマートフォン、切符といつた直ぐに出せるものを入れる。これならデイパックをコインロッカーにはふり込んだり、可能ならチェックイン前にホテルへ預けたりすると、必要なものだけで遊びに行ける。中々便利が宜しい。

 便利が宜しいのは宜しいのだが、これを常用の組合せにするのは無理がある。普段使ひには普段使ひ向けの鞄類があるわけで、両者を混用するのも矢張り無理がある。さういふ理想を考へれば、常用の鞄とさうでない鞄は別々に用意するのが結論になる。なりはしても、それで幾つも買ひ込めばいいのかといふ疑念が浮んできて、旅行などいふ特殊な状況の為にお小遣ひを費やして、元を取るのに何年かかることやら判らない。そんなところで神経質になつてどうするんです、気にせず買ひ揃へればいいでないのと助言下さる讀者諸嬢諸氏もをられるだらうが、何しろこちらはもう老人である、奮發したつて使ひきるまでに寿命が尽きる…さうなつたら鞄はわたしと一緒に焼かれて、彼岸行の供をするのだらうな…可能性を無視するわけにはゆかないよ。詰るところ分割の問題は目処が立たないままで、我が讀者諸嬢諸氏に解決の妙案があれば、是非ご教示賜りたいと思ふところなんである。