正直なところ、竹内まりやは好きではない。何といふか、咜られるのを覚悟して云ふと、"健気で可愛らしい、だけど可哀想なあたし"をぬけぬけと描いてゐる感じがする。"繊細で懸命で不器用なぼく"を唄つた初期のMr.Childrenが、男版の竹内まりやだつたと云つたら、誤魔化せるか知ら。
とは云へ、例外があるのは認めなくてはならない。彼女のファースト・アルバム『ヴァラエティ』では、後年のぬけぬけの惡癖が出てゐないし、「シェットランドに頬をうずめて」なんて、ラヴ・ソングの佳曲だと思ふし、この唄もまたそのアルバムに収められてゐる。まあこちらは、ラヴ・ソングではないけれども。
ファム・ファタールを気取つてゐる女。
ファム・ファタールになりそこねた女。
詰りはさういふ唄である。小錢を掛けた映画のやうに、洒落てゐて、花やかでもあるけれど、中身は驚くほど空つぽ。
莫迦にしちやあいけない。
竹内のファンはまたしても、腹を立てるだらうか。
併しその空虚は、最初から最後まで計算づくの歌詞…造形である。手の込んだ映画のセットみたいなもので、よくもまあしれしれと、ここまでツクリモノを用意したものだ。と云ふ時、勿論わたしは褒めてゐるので、その冷やかなセットの中、竹内まりやは数分間の主演女優を、見事に演じきつた。