閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

817 我が懐かしの

 もう廿年近く前、仕事の都合で三ヶ月ほど、沖縄市…コザと呼びたい気もする…にゐた。時間にルースで、底抜けに明るくて、ふくよかな美人が多い土地だと思つた。沖縄に行くとなつた時、決めてゐたのは、あつちのお酒をやつつけてやらうといふことで、オリオン・ビールと泡盛を呑んだ。当時のメモや画像が見当らないから、曖昧なのだが多分、県産でない酒精を呑んだのは一度きり(確かオリオンを置いてゐなかつたから)と記憶してゐる。

 泡盛は兎に角呑んだ。あの土地の風土と食べものに余程、適つてゐるのだと思ふ。何を呑んでもうまかつた。だから何を呑んだかを殆ど覚えてゐない。数少い例外が残波で、兎に角呑んだ泡盛カップ入り(!)まであつた…の中で、一ばん多く呑んだのがこれだつたからである。我われは何かにつけ、酒席を囲んだのだが、卓の眞ん中には常に、残波の四合壜が置かれてゐた。オン・ザ・ロックや水割りで、思ひおもひに呑むと、直ぐに空になつた。空にしたのはもしかすると二本だつたかも知れない。あの当時はタフだつた。

 その残波を過日の夜、偶々目にした。目にした途端、コザの夜が思ひ出されたのは云ふまでもなく、さうである以上、呑まないわけにはゆかない。水割りで二杯。懐かしく感じたのは、味はひだつたのか、あの賑々しい酒席だつたのか。