閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

940 うめエ

 夏は梅が嬉しい。

 尊敬する檀一雄が教へてくれるところに依れば、梅干しは梅を塩で漬けたら出來るといふ。私から見ると、そこには神憑り的な技がありさうに思はれてならない。

 

 某所の某立呑屋で、常聯さんが漬けた梅干しを御馳走になつたことがある。果肉の具合が、好みよりやや堅く感じられた以外は、文句無しの美味しさであつた。

 別の小さな呑み屋で、"梅鯵フライ串"といふのがあつた。串刺しの鯵フライに、梅のソースを乗せてあつて、熱くて淡泊な魚肉によく似合つた。これ、旨エなあと褒めたら

 「梅肉と大葉を刻み叩いて、味醂で調へただけですよ。六つかしくもなんともありません」

實際のところはもちつと、工夫をしてゐるだらうと思つたけれど、かういふ場合は、すりやあ大したものだと手を拍つのが、望ましい態度なのだな。