閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1132 S640で気がついたこと

 前回、電池繋がりで、P300に目を向けはしたが、S640はぽちぽち、使つてゐる。と云つたら、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏からは

 「スマートフォンの代りに、使ふ積りではなかつたか知ら」

と訊かれさうに思ふ。その通り、その積りだつたのは、間違ひない。予定が狂つた。この稿はその話を短くする。

 短くと云ふのは、原因がややこしくないからで、要するに寄つて撮れない。をかしいなと思つて仕様を確めると、広角端の最短撮影距離が、四十五センチメートルだつた。呑み喰ひを記録する場合、せめて卅センチメートルくらゐまでは寄れないと、不便でいけない。

 一方で成る程と、妙になつとくもした。

 要するに、記念冩眞が撮れれば、いい。

 S640の広角端は、当時としては中々ひろい廿四ミリだつたが、それが背景を入れた集合(記念)冩眞向けだつたのは、疑ひあるまい。そもそも私みたいに、広角で寄つて撮りたがる男が使ふのを、考へてゐなかつたところで、ニコンの責任を云々するのは、筋の通らない態度といふものだ。

 まあ、その辺は兎も角。S640で呑み喰ひが撮れない…撮りにくいのは、現實問題である。何とかなるだらうか。三秒考へて、無理だと結論を出した。この手のコンパクト・デジタルカメラは全般、その中ですべての機能が完結する設計だから、フヰルタは勿論、接冩用のアクセサリを、附けるのも、相当の無理がある。

 しやアない。

 諦めのはやい男なんである、私は。

 それから裏面に目をやつて、待てよと思つた。花のマークがある。一般的にいつて、花のマークは、近接撮影で用ゐることを示してゐる。その筈である。その釦を押し、小鉢を撮るくらゐの距離で、動作を確めてみた。焦点が合つた。そのまま、無限遠の焦点合せも出來て、動作はのんびりしたものだが、こつちは速さを求めてゐない。使へさうである。

 やれば出來るぢやあないか。

 感心してから、結局のところ、私の注意力が、足りてゐなかつただけなのだと、気がついた。