閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

082 過剰

①鯖の水煮罐。

 どこのでもいいでせうが、あんまり上等のは買はなくていいと思ふ。

②大豆の水煮。

 詳しい事はよく判らない。わたしが買ふのは消費税込み105円。

③屑野菜。

 “野菜炒めセット”や“千切りキヤベツ”でもかまはない。ただ“千切りキヤベツ”だと、見た目が惡くなるので、注意が必要。

④小鍋に②①の順で入れ、火を点ける。火はごく弱く。弱いままで。

⑤廉い鯖罐を使ふと匂ひが気になるので、その場合は生姜(チューブ入りでいい)をたつぷり。

⑥醤油でも濃縮出汁でも加へる。食べる時に調整するなら少量で。さうでないなら、多いかなと思へるくらゐでもいい。

⑦野菜を入れるタイミングは、何を使ふかで調整する。また上の味つけは、ここで出る水分も考慮するのがよい。

※出來るだけ、水は使はず、鯖罐の出汁(と呼ぶのか知ら)と水煮の汁、野菜の水分で仕立てたい。それだけで足りない時は、必要と判断した分だけ、注ぎ足しませう。麦酒を呑みつつ、ちよいと垂らし込むのも惡くない。

※諸々の味つけが面倒なら、即席味噌汁を使ふ方法もある。油揚げとか若布のやつ。まあそれなら、水煮でなく、鯖味噌罐を使ふのがいいんでないのかといふ疑問にぶつかるだらうなあ。

※ここまでは基本、和風の味つけを前提にしてゐるけれど、洋風がよければ、生姜と併せて大蒜(矢張りチューブでいい)を追加し、ホールトマトをひと罐、はふり込めばいい。面倒でなければ、湯剥きしたトマトをざくざく切つたのを使はう。この場合、わたしなら大きく切つた玉葱やらセロリやらも入れておきたいが、その辺は我が親愛なる讀者諸嬢諸氏のお好みで。

⑧とろとろと火を通せたら(さう。最初から最後まで、火は弱いまま)、大きめのお皿に、レタスやらキヤベツやらトマトやら、或はざつと塩うでしたもやしでも乗せ、その上にごつそり、盛らう。

※ひと皿で完結させたければ、もやしより素麺か冷麦を使ふのがいいと思ふ。稲庭饂飩でもよささうだが、主役はあくまでも鯖罐だから、そこらはひとつ、アレとしておかなくてはなるまい。

※洋風に仕立てる場合、マカロニか極細のスパゲッティだらうか。茹であげるのが面倒なら、無くたつて丸で問題にならないけれど。

⑨元の味つけが控へめなら、味つけぽん酢でもちよいと振掛け、更に小口にした葱か貝割れ大根をたつぷり。後は麦酒でもお酒でも焼酎でも用意して、ゆつくりつまめば宜しい。

※所謂“食べる辣油”を食べる分だけ、ほんの少し、乗せてみても中々うまい。洋風仕立てならチリー・ソースだらうか。いづれにしても、かういふのは、忍ばせる程度でないと、刺戟がきつすぎるから、用心をば。

⑩それで小鍋には、鯖の欠片や野菜の残りがあるでせう。これは次の日に煮詰めてから、ごはんに乗せるのがいい。小口切りの葱は必ず。ただ、これだけでは見た目が貧相だから、温泉卵を割り入れる。それくらゐ奢つたつて、罰は当らないといふものだ。

 要は鯖と大豆の水煮を焚くと、ただそれだけの話。ただそれだけの話を、どこまで過剰に書けるだらうと思つて、試してみた。なので我が親愛なる讀者諸嬢諸氏に、どこまで有用なのか、保證は致しかねる。