不意にハムと生ハムはどうちがふのか、気になつた。どちらも食べた事はあるし、生ハムは生といふ割に生肉ではないのも知つてゐるが、なら何が異なるのか、そこまで考へた記憶が無い。明宝ハムの[生ハムとハムの違い]から抜粋すると
https://www.meihoham.co.jp/column/ham-gift-osusume/
ハムとは、本来豚のもも肉によって作られた加工食品のことを示します。というのも、ハムという名前がそのまま英語で豚のもも肉を示しているからです。
ただ、現代では「ロースハム」や「プレスハム」など、豚のもも肉以外の肉であっても、肉を塩漬けして成型、燻製と加熱を行ったものを総じて「ハム」というのが一般的です。
先づハム全般の事をすつきり説明し、生ハムについて
生肉に近い見た目ですが、生ハムは決して生肉をそのまま使ったものではなく、豚のもも肉を調味料と一緒に塩漬けにしたあと乾燥と熟成を経て完成した食品のことをいいます。
では、なぜ生ハムという名前が定着したのかといえば、それは通常のハムと異なり、加熱という工程を経ていないからだと考えられます。
と續けてゐる。解り易い。突き詰めてゆくと細かな差異がもつと色々あるのだらうが、それは明宝ハムが書くべき事柄ではない。
塩漬け、燻蒸と加熱、乾燥と熟成といふ工程から、ハムが本來、保存食だつたのは明白である。我われの遠いご先祖が豚の飼育を始めた頃…ここで日本養豚協会の[養豚の歴史]を参照すると
https://jppa.biz/story/history/
ヨルダン渓谷では紀元前六千年の農耕遺跡から出土した豚の骨が一番古いとされている。また、スイスの湖棲民族の遺跡(新石器時代、紀元前五千年)、メソポタミア(紀元前四千年)、エジプト(紀元前三千年)、アジアの南東部(紀元前二千年)等で豚が飼われていた証拠が見つかっている。なお、中国では新石器時代の豚の骨が見つかっており、今後も発掘調査が進むとさらに古い年代のものが見つかる可能性がある。
ださうだが、その頃から既にハムの原型はあつたらしい。食肉の加工品としては相当に古いのではなからうか。加熱か乾燥かの撰択は旨いまづいといふ贅沢ではなく、その土地の気候や、かれらに用意出來た設備といつた事情から導かれたにちがひない。
尤もハム作りが産業として本格的に成り立つたのは、十九世紀に入つてから…それまでは村や家庭での生産が精々だつた…で、そこまで遅れた理由はよく判らないけれど、意外と云へば意外である。技術的な困難があつたゆゑなのか、お漬け物と同じく、ただ単に
「我が家で作るものさ」
といふひとが多かつたからなのか。作り續けられたのは、有用な保存食だつたのは勿論、何千年かを掛けてハムは美味くなつた筈だし、その美味くなつたハムのある食事が出來てもゐたからで、さう考へると我が國のハム事情は淋しい。
いやいやさうでもありませんよと、加工肉方面から反論が出るだらうか。併し明宝ハム、だけでなくすべてのハム会社には気の毒だが
「うちの食卓にはハムが欠かせないのだ」
といふ家庭がどれくらゐあるものか。朝食の麺麭に添へ、夕食のサラドに混ぜる程度が精一杯だらうと思ふ。
念の為に云ふと、ハムがまづいからではない。削つた生ハムに黑胡椒を挽き入れたオリーヴ油を添へたやつや、クリーム・チーズと無花果とあはせたやつは、葡萄酒の素晴らしい友だし、もつと手近なところでディープ・フライ詰りハムカツやサンドウィッチを思ひ浮べれば、ハムは麦酒の惡友或は珈琲の相棒にもなると解る。
ただ残念な事に、ごはんのおかずにはならない…が極端でも、なりにくいとは云へる。僅かな例外はハムの同族、親戚と呼べさうなポーク・ランチョン・ミートのおにぎりくらゐかと思へる。それがハムの責任でないのは当然だが、ハム会社がもつと賣りたいなあと嘆いてゐるとしたら、それはをかしい。ごはんのおかずに出來れば、肴にもなるわけで、ただどう料ればいいものか、見当がつきかねる。
味噌が適ひさうな気がする。味噌を使つて、葱をたつぷり散らせば、きつと美味い。焼いても漬けても煮込んでもいいし、塗るだけでもいいだらう。試したわけではないが、当り前に考へて味噌は旨いだから、まづくなる方が寧ろ不思議だらう。尤も我が親愛なる讀者諸嬢諸氏からは
「何を今さら」
と呆れられさうであつて、確かにその通りでもある。ではあるけれど(とここで居直れば)、さういふ当り前を自慢さうに書きつけたくなるくらゐ、ハム料理…おかず乃至肴になりさうな…とは縁遠いのだから、仕方がない。勿論ハム会社各社は自慢のハム料理を公開してゐるが
・明宝ハム
https://www.meihoham.co.jp/recipe/
・日本ハム
https://www.nipponham.co.jp/recipes/ham/
https://www.primaham.co.jp/recipe/ham/
・伊藤ハム
http://www.itoham.co.jp/sp/recipe/
旨さうではあつても實感が伴はない。綺麗すぎる…といふよりも、どこでたれと何を呑みながら食べるのか、想像しにくいと云へばいいか。尤もこれはハム会社のレシピ集に限つた話ではない。ハム料理の冩眞が家の食卓でも馴染みの呑み屋でもいいが、そこにそのままあるのかどうか、なだらかな連想が働く例はさう多くはない。さういふ冩眞は要するに映りが宜しくないからで…ひとつ思ひ出した。
偶に顔を出す呑み屋…といふかスナックでは、時折変にうまいつまみを出す。いりこと落花生を乾煎りしたやつなんかは料理とは呼びにくいけれど、ヰスキィのソーダ割りによく似合ふ。そこで過日、ひよいと、玉子のサンドウィッチに薄切りのたくわんを添へて出した。マヨネィーズやタルタル・ソースに刻んだたくわんを混ぜるのは知つてゐたが、サンドウィッチに添へてきたのは初めてで、そのサンドウィッチを頬張りつつ、たくわんをつまむと(呑んでゐたのは葡萄酒)、不思議に旨かつたから驚いた。それで思つたのは、ハムにも似合ふのではなからうか。ぶつ切りのハムをざつと焼いて、粗く刻んだたくわんにマヨネィーズを混ぜた味噌。焼き海苔があつてもいいかも知れない。ごはんに適ふかどうかの自信は持てないけれど、肴にはなるだらう。まあ冩眞だと地味な画になるのは確かだから、たれかに試して下さいとはねだりにくい。