閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2018-01-01から1年間の記事一覧

165 地口

辞書的な意味…定義は以下の通り。 ・しゃれの一種で語呂合せ。 ・世間でよく使われることわざや成句などに発音の似通った語句を当てて作りかえる言語遊戯。 ・諺や俗語などに同音または発音の似た語を当て,意味の違った文句を作るしゃれ。 ・成語に語呂を合…

164 きみ

塩入りの熱湯で烹られ ひび割れを剥ぎ取られ 醤油と出汁に漬けられ 庖丁でふたつに割られ 蕩けさうなその黄身の 小皿に曝け出された時 我が指はふるへる箸先 触れる半身は君の柔肌

163 照合

えいやと店に入り ビールをば一ぱい 取り急ぎ風の前菜もよろし 間を置かず食事に移らむと ひとり品書を注視 たつぷりの炒め物を平らげ 結構な気分でお店を去れり …出來が惡いね。 いや、出てきたひと皿が旨かつたのに、遊びの方が我ながら感心しない。 冗談…

162 帰り道にでも

突然に食べたくなつて、また食べなくては収まりがつかない…つきにくい食べものと云へば、焼き餃子にコロッケ、それから鶏の唐揚げではないかと思ふ。念を押すまでもなく、わたしの場合はさうなので、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にはもしかすると、鱸の丸揚げだ…

161 赤身礼讚

あな刺身 割かれ盛られし紅の肌 あな刺身 眞白なるつまの控へて あな刺身 緑の山葵をば供にせり 馬手に盃あらば 眼前には友あり あな刺身 汝が脂は珠となりしか あな刺身 紫紺の醤油をまとひて あな刺身 一夜の酒席を彩れる姿

160 夜はまた何ごともなし

夜も更けて かへり路 嬌聲に 惹かれ寄れば グラスには 葡萄酒と 小皿に チーズの欠片 味はひて また食めば 月もまた 中天に醉ふ

159 タツタガハ

古い手帖を捲るのは愉しみであり恥づかしくもあつて、今回は後者の話。 たれの本で讀んだのかは忘れたが、明治頃に短歌を習つてゐた少女がゐて、何かにつけて一首を詠んださうな。先生に褒められて嬉しいとか、美味しいお菓子を食べたとか、見上げた月が綺麗…

158 颯風戯よみ~焼く

持つてこい 熱い老酒 焼き餃子 山門の 厭ふ葷酒の 美味さかな そんならと 拗ねるうなぢの ほつれ髪

157 颯風戯よみ~月見

中秋を 忘れ蕎麦やに 月見かな どんぶりに 月の昇れる 日暮れ前 秋の夜の 月に叢雲 たまご葱

156 颯風戯よみ~ラヂオ

独り寝の 枕頭に鳴る ラヂオかな 夜も更けて 天気予報の 子守唄 流行り唄 昭和が近く なりにけり

155 貧困なのは

朝めしを食べ損ねた時。 移動中の腹の虫抑へ。 或はおやつの代役に。 コンヴィニエンス・ストアのおにぎりをいつ、食べるのだらうと思つたら、これくらゐしか、浮んでこなかつた。 我ながら貧困である。 ところで貧困なのは、わたしの想像力なのだらうか、そ…

154 痕跡

数日前から永井荷風の『断腸亭日乗』を讀んでゐる。岩波文庫に収められてゐる磯田光一による抄録版。何度めになるか、思ひ出せないが、讀む度に面白い。 何がどう面白いのかは、機会を改めて書くとして、今回は別の話。この偏窟な老人の日記…と称する文ノ藝…

153 眞似びにならず

オーケストラの指揮者にあくがれがある。 さう思つたのは、併し近年のことで、2012年にウィーンフィルのニューイヤー・コンサートで棒を振つたマリス・ヤンソンス…正確に云ふと、その掉尾を飾る「ラデツキー行進曲」でのヤンソンスで、何しろあのコンサート…

152 妙な飲みもの

ホッピーといふ妙な飲みものがある。“清涼飲料水”で、主に焼酎(甲類)を割るのに使ふ。それ自体だけでなく、焼酎を含めてホッピーセットと呼ぶこともあつて、この場合、ホッピー自体は“外”、焼酎は“中”と分解される。最初は“外”と“中”が同時に出され、後は“中…

151 折合ひ

偶にマーケットでお弁当を買ふ。簡単な食事の準備すら面倒で、飲み屋に行く気分でもない時。併し罐麦酒は飲むので、たとへばにぎり鮨なんていふのは買はない。おかずがつまみを兼ねるのだから、当然の判断である。 だから大体は幕の内弁当的なのを撰ぶ。何と…

150 颯風

雅号といふのがありますな。松尾芭蕉の芭蕉、小林一茶の一茶。文人だけでなく、佐久間象山の象山や武市半平太の瑞山もさう。新聞記者でも長谷川如是閑や福地櫻癡、陸羯南がさうだし、勿論文人である夏目漱石や森鴎外、内田百閒に永井荷風。詩人で云ふと正岡…

149 花は日本の

フィレンツェにカテドラーレ・ディ・サンタ・マリア・デル・フィオーレといふ建物がある。英語だとカテドラル・オヴ・セイント・マリア・オヴ・フラワーズ。"花の聖母の大聖堂"が日本語訳で、“花の”が“聖母(この場合、“マリア”だとカタカナが浮いた感じにな…

148 徴

たれの小説だつたか、ある大人が少年に、パンとチーズを忘れてはいけないよ、と教へる場面がある。我われで云ふと、ごはんにお味噌汁、またはお漬物だらうか。尤もこのくだりで大人が云ふパンとチーズは、苦難に対する希望の徴で、本当ならパンと葡萄酒にな…

147 平成最後の甲州路 第4回

何年前だつたか。中野にある立飲み式の葡萄酒バーで、偶々隣あつた外國人と話をした。スウェーデンからの観光客だつたと思ふ。中野に來るくらゐだから、少々マニヤックな気配があつて 「おれは今日、いいものを手に入れた。見せてやらうか」 と云ふので、出…

146 用意してもらふ

その気になれば毎日でも食べられさう…詰り用意が大して面倒ではない(筈な)のに、意外と距離のある食べもののひとつに、目玉焼きを挙げたい。どうです、割りといいところを衝いては、ゐないだらうか。念の為に云ふと、まつたく作らないわけでなく、食べると旨…

145 甘い酢つぱい

わたしの目をとらへて離さない品書きはどうやら、“甘酢何々”であるらしい。白身魚や揚げ鶏の甘酢あんかけとか、文字を見るだけで、きつと鼻の孔が膨らむ思ひがされる。その連想で、酢豚や鯵の南蛮漬け、或はチキン南蛮でも、鼻孔が膨らみさうになつてくる。…

144 平成最後の甲州路 第3回

お酒と蕎麦と寫眞とカメラを愛好するニューナンブが殊の外重んじるのは打合せである。さういふのはメールなり何なりの方が、行き違ひを減らせるのではないかといふ聲も聞こえさうだが、またそれは正しい一面でもあるのだが、顔を見ながらの打合せは、互ひの…

143 今のところは

今のところ、本気ではない。 今のところ、であつて、機会に恵まれれば、本気にしていいとも思つてゐる。 ライカの話。 ここで“機会に恵まれれば本気になる”だらうライカは、自分で使ふライカの意味であつて、Ⅰ(c)の0番号なしとか、Ⅲcのルフトワッフェン・ア…

142 微妙な立ち位置

“何々定食”と呼ばれる食べ方は意外と特殊ではなからうか、と不意に思つた。ごはんにお味噌汁、お漬物、小鉢、それから主菜で構成されるあの定食の話。だつてパリでの“鴨のオレンジソース煮定食”とか、フランクフルトでの“焼きソーセイジ定食”、或はリスボン…

141 出落ち

気持ちは判らなくもないが、無茶を云つちやあいけないと、冷静を装ひたくなることが、時々…偶に…稀にある。といふところから話を進めたかつたのだが、かういふ出落ちの光景を目にして仕舞ふと、進めるも何もどうだつていいと思へてくる。 これが一体どうなる…

140 平成最後の甲州路 第2回

以下は手持ちのスマートフォン(auのシャープ製端末 SHV33)のメモ帳に入力した内容である。 ◾️甲州路計劃メモ ①勝沼メルシャン ・プレミアムツアー 14:00~15:30(土日祝) ※参考 新宿07:30發あずさ3>大月08:47経由>勝沼ぶどう郷09:10着 勝沼ぶどう郷15:44…

139 ぼんやりと思ひ出す

袋入りの即席麺といふのがある。五つがひと纏めになつて三百円とかそんな値段だから、単純計算でひとつ六十円くらゐ。カップ入りだと特賣でひとつ百円前後なのを思ふと、割安だらうか。尤もカップ麺の場合、一応具が入つて、洗ひものをしなくてもかまはない…

138 平成最後の甲州路 第1回

旅行に関はる随筆といへば矢張り、内田百閒の『阿房列車』で、この[閑文字手帖]でも何度か、或は何度も触れてゐる。同じ本を挙げるのはどうかと思ふよと、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏からは呆れられるやも知れないが、繰返して取上げ、また推奨したくなる本が…

137 さういふ運び

年に何べんかビジネスホテルに泊る。ビジネス詰り仕事でなく、遊びの寝床で使ふので、眞面目なビジネスマンから、冷やかな視線を送られるかも知れない。ここでは一応、済まないねえと云つておく。 そのビジネスホテルの料金には大体、“朝食バイキング”が含ま…

136 独りで

偶に独りで飲みに行く。遠くまで足を運ぶことはしない。旧國鐵で云ふと中央線の大久保から中野の三驛が範囲なので随分と狭い。別に狭くて困りはせず、日常的に動くのがこれくらゐだし、この辺りには呑み屋が多い。恵まれてゐる土地なのだとここでは云つてお…