閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

780 一行で書け

 "白身魚フライと海苔おかか弁当"とか、そんな名前だった。五百円くらい。

 「白身魚のフライに海苔とおかかの弁当って、すりゃあ見れば判るさ」

と肩を竦めたくなる程度に、そのままの名附けで、コンビニエンス・ストアだけではなかろうが、安直ですなあ。尤も気取った店が好みそうな、"フライド・ホワイト・フィッシュに海の幸ライス"とかの名前で出されたら、困惑するのは間違いない。

 「白身魚のフライに海苔とおかかの弁当じゃあないか」

と肩を竦めたくなる程度に。

 そう考えると、お弁当にどんな名前を附けるかは、案外な難問ではなかろうか。おかずの名前を並べ立てれば、一応の体裁は調うけれど、仙台の牛タンや明石の蛸めし、薩摩の黑豚といった地名の祝福が無ければ、ただの説明文になってしまって、少くとも旨そうには感じにくい。

 「コンビニ弁当の名前なんて、そんなところでいいよ」

と云われたら、その通りだとは思うけれども。

 併し松花堂とか幕の内とか、器や形式で呼ばれるのも考えもので、漠然と煮物や焼魚やお漬物が入っているのだろうなと判っても、こちらの好みに適うかどうか、若干の不安が残る。これが新幹線弁当とか、そんなだったら

 「ああ先頭車輛を模した函になって、子供が喜びそうなハンバーグや海老フライや鶏の唐揚げ、おにぎりにゼリーが入っているのだな」

(詰り我われ呑み助に望ましいおかずではないのだな)と見当を附けられるんだが、大人が悦びそうなその系統の名前は、残念ながら目にした記憶がない。

 こんなことを書くと、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏から

 「どんな名前だろうが、コンビニなら見れば判るし、驛弁なら見本の蝋細工や冩眞があるんだから、平気だよね」

冷静な聲がしてきそうで、いやそんなことを云うものではありません。何が入っているかなと思いながら蓋を開け、中身を見て、やあこれは旨そうだなあと悦ぶのも樂みではないですか。だからお弁当の名前は

 「ある程度の見当は附くにしても、細かなところまでは、想像が到らず、且つ旨いだろうと期待が持てる」

のが望ましいことになる…と簡単に云って気附いたが、余程の天才でもなければ、むつかしいよ。わたしが思う唯一の成功例は海苔弁で、元々あった筈の呼び方を商品名に採用したのは、發明ではない分を差し引いても、それを撰んだのは大した慧眼だったと思われる。

 

 まあ、理想的なお弁当の名附けを文學的にたとえるとしたら、(満腹の貴女を、空腹に転じせしめる)食慾をそそる一行詩だからね。無理をして気取るなら、白身魚フライと海苔おかかの方が、余程にましな態度と呼べるかも知れない。