閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

978 不意のまあいいか

 その積りは無かつたけれど、まあいいかと思つて、呑み屋に入つた。勿論、(ある程度は)馴染んだ(筈の)呑み屋で、併し何がまあいいのか。坐り馴れたカウンターの端に席を取つて、壁にふと目をやつたら、"月山味噌胡瓜"とあつた。訊くと山形の月山から取り寄せたのださうで、だつたら註文しない手はあるまい。

 出てきた。金山寺のやうに、大豆の残つた嘗め味噌だらうと思つてゐたら、たいへん滑かな仕立て。食べた。うつすら甘みがあつて、その甘みを微かな辛さが引き立てて、そのままで實にうまい。胡瓜の水気は寧ろ邪魔なくらゐに思へた。後で註文した串焼き(お任せ)にささみの塩があつたから、ほんの少し乗せて試すと、似合ひの組合せになつた。

 偶にかういふことがあるから、不意に思ふ"まあいいか"も、さうさう莫迦に出來たものではない。