閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1005 曇り空の夕方

 冬は曇つた空がいい。

 夏の遠雷にならんで。

 どうにも家から出るのが億劫に感じられて、かういふ時には、篭つて呑むのが最善手と云つていい。

 馴染んだ呑み屋の卓をば目指すのが次善の手で、會社勤めの身では、こちらを撰ぶことが多くなる。

 ある空が曇つた夕方、お誂へ向きの時間帯であり、陋屋からは出掛けてゐもしたから、馴染んだ呑み屋の卓をば目指した。具合よく、好みの席が空いてゐて、嬉しくなつた。

 「酎ハイですか」

店長はこちらの一杯目を判つてゐる。勿論と応じ、あはせて串焼きを註文した。四本の串は干してお代りをするに足る。さうして出てきたお代りを見て、曇り空の夕方、呑むのはいいものだと思つた。