今でこそコシナは凄いレンズを造る會社といふ地位を占めてゐるが、前世紀末頃までは廉なレンズを造り、自社製一眼レフの金型を使ひ、各社へ一眼レフ(廉価版なのは云ふまでもない)をOEM提供する會社であつた。私の場合だと、リコーのXR-8とニコンFM10で、あの會社を認識した。いやコシナを明確に意識したのは、年少の友人であり、ニューナンブの一員でもあるクロスロードG君の所為だつたと思ふ。
知り合つた当時、クロスロードG君はライヴの撮影をしてゐた。趣味だらうとこちらは考へてゐたが、撮つた冩眞(の少くとも一部)が、某バンドの画像としてオフィシャルに採用されてもゐたから、實際のところはどうだつたか。今から訊くことではないから、そこは措くとして、かれがライヴ撮影をする際に一時期、愛用してゐたのが、FM10とコシナの20ミリだつた。見せてもらつたことがあつて、ペット用のストラップを附けたそれは、ボディもレンズも手擦れでくたくたになつてゐて、實に恰好よかつた。
待てよ、その前にベッサLがあつたかも知れない。L39ねぢマウントを採用した、ファインダを持たない機種。フォクトレンダーとその関連のブランドは、権利が色々面倒だつたのを、コシナの社長が纏めて譲り受け、採用したといふ。
發表された時は、マニヤから大不評を喰らつたのを覚えてゐる。ブランドに泥が塗られたとまで云ふひともゐて、ひどいなあと思つたのはここだけの話としておかう。序でながらその論評は、ベッサR、同T、同R2と續いたことで、間違ひと判つた。コシナが凄い會社と認識されたのは、このベッサLからと云つていい。日本のカメラ関連社で、然るべきお金を掛ければ、ちやんとした製品を造れるのを證明したのは、シグマに續いて二例目ではなかうか。
ところでといふか、併しといふか。コシナは(レンズは兎も角)デジタルカメラの方向に目を向けない。ベッサR2を基本にしたエプソン機を唯一の例外に、コシナ製デジタルカメラは出てゐないし、出す気配もない。本体は他社に任せ、我われはレンズに注力するのだ、といふことか。
それはそれで仕方なからうが、コシナ好きとしては、敢てコンパクト・ デジタルカメラを出してほしいと思ふ。ビテッサやビトー(どちらもフォクトレンダーの機種)名がいい。もつと云へば、デジタルビテッサやデジタルビトーをコシナ銘にした海外版が慾しい。我ながらまつたく捻くれた感覚…物慾だと思ふが、一度ベッサLの海外仕様とおぼしき機種を見たことがある。SW107とかそんな名前だつたか。買つておけばよかつたと、何年かに一度、後悔してゐる。その反動が顔を出したのか知ら。手擦れてすがれたプラスチック・カメラには、COSINAのロゴが似合ふと思ふ。
とは云つても、前回にも書いたとほり、令和七年も私の主力はGRⅢである。コシナだのフォクトレンダーだの、ぴいぴい鳴いたら、一台のコシナ製ニコン銘一眼レフを使ひ續けたクロスロードG君にきつと呆れられる。今年のコシナは、余程の有縁でもないかぎり、手元にはやつてきはしまい。