閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

481 ふはふは

 前回の[マイコン]で中古でhpのパーソナル・コンピュータを買つたと書いた。買つて使ひ始めて、思つてゐたより常用してゐるau版のAQUOS sense3で、十分ではないにしても、どうにかなるものだと気が附いたから少々戸惑ひを感じてゐる。今のところ、外附けのハード・ディスクに溜つてゐたデータの整理が利用の主で、ネットの利用やラヂオのアプリケイションはAQUOSに任せてある。さういふ使ひ方に馴染んでゐるのだなと思ふ。習慣と機械を較べたら習慣が優先するのは当り前だから、hpを無理やりに動かさなくてもかまふまい。併しキー・ボードでの入力に直ぐさま移らなかつたのは、我ながら意外だつた。げんにこの稿もAQUOSのアプリケイションを使つてゐる。歴史的仮名遣ひを使へる辞書(多少の癖は感じるけれど、その辺りは単語の登録でカヴァ出來さうである)も入れたのに何故だらう。

 ごく簡単な事情として、この手帖は一ぺんに書き上げるわけではない。書いては消し、消しては書き直し、保存してまた續きを書き、また消して書き直してを繰返す。キー・ボードの便利さは十二分に認めるのは吝かでないが、どこにでも持運べるAQUOSを比較して、どちらがわたしにとつて利便性が高いものか、考慮の余地はたつぷりある。hpを持ち歩いて必要な時に使ふ方法は無い。さうするには大きくて重すぎて嵩張りすぎる。百歩を何べんか譲つて持ち出しても、内蔵の電池は信頼に値しないし、もう何百歩を譲つてそこに目を瞑つても、電源を入れてテキスト・エディタを立ち上げる時間までは我慢出來る自信がない。フリックといふ不便に対するAQUOSの優位は、文字…文章の入力を始めるまでの速さだと云つていい。

 併しさうなるともつと速いのはその辺の紙切れに書き附けることになる。帖面である必要はなく、気に入りの筆記具でなくてもその瞬間だけ辛抱したら、取敢ずは書ける。尤もわたしの場合、その字が酷く汚いといふ問題がある。汚いのは何とか我慢したとして、後で讀める保證が無いのは困る。讀めたとしても片言隻句に過ぎて、何が何やら解らなくなる可能性も高い。讀めない或は意味が解らなくたつて話の種にはなるのだらうが、それは結果的にさうなるだけのことだから何にもならない。であればゆつくり丁寧に書かねばならなくなつて、素早く書く目的からずれて仕舞ふ。手書きはどうやら、ニコンやライカの旧型を弄る樂みに近いらしい。詰り樂みは別として、素早く書く一点に限ると、hpでもAQUOSでも些か中途半端と考へられる。

 そこで不意にpomera…訓みはポメラ…を思ひ出した。KING JIM社(事務器の王さまの意味だといふ)のテキスト入力に特化した機械。特化といふくらゐだから、ウェブの閲覧は元より、メールも使へない。作成したものをPCに送れは出來ても、受けることは出來ない。大昔のワード・プロセッサを現代風に仕立て直したやうな感じがする。さう云へば大坂の家でCASIOのワード・プロセッサを使つてゐた。今でも残つてゐるだらうか。単機能に徹してゐる点で、我が國では珍しい機械だと思ふ。企画の会議で散々酷評された時、たつたひとり、おれはかういふ機械が慾しかつたのだと絶讚したひとがゐて、多くはないにしても必要とするひとはゐるのだと話を進めることが出來たのだといふ。一種の神話と云つてよく、わたしはかういふ神話を好む。またそれなりに賣れた(後継機を出したのだから、さうだつたにちがひない)pomeraの改良を、テキストを扱ふ部分に限り、ミニ・コンピュータへの誘惑を我慢したKING JIM社はえらい。

 ではそのpomeraを買ふのかと云ふと、そこで若干の躊躇を感じて仕舞ふ。第一に日本語変換がATOKなのが気に入らない。ATOKが駄目なのではなく、どうも相性が宜しさを感じない。馴れの要素もあるだらうか。第二として、通信による連携がMaciPhoneでしか行えない(らしい)のも困る。こちらはmicroSDカードで何とか出來さうではある。もうひとつ、現行機はリチウム・イオン電池なのも厭な感じがある。旧機種は乾電池駆動だつた。リチウム・イオンでも保ちは平気なのだらうが、わたしはその辺りがどうも神経質なので、充電器を手放せなささうな気がされてならず、充電器で軽快さを削がれるのは御免蒙りたい。

 上の事情に加へて、pomeraは意外と高額でもある。積極的に求めるひとは少からうから、文句は云はない。それに仮に文章を書くことで口を糊してゐれば、それで得られる収入に照らして、正しい意味でのコスト・パフォーマンスを計算出來るだらう、尤もこちらは素人である。そんな計算は成り立たない。それに単機能の機器はプロフェッショナルでなければ、プロフェッショナルを目指すひとが使ふのが本筋だと思へば、わたしが入手するのは少々気が引ける。念を押すと謙遜の気分も無くはない。なので買へないといふわけではないのだが、ここで最後の問題がある。pomeraは持運んで使ふのが値うちなので、AQUOSと共に(こちらには通信を任せなくてはならない)持ち出すことになる。詰り自動的に荷物が嵩張り重くなる。hpに較べれば無いのと同じかも知れないが、あつちはそもそも持ち出す積りでないのだから、比較そのものがをかしい。

 とは云つたものの、矢張り長めの文章を途切れ途切れ書くには、持運ぶ嵩を出來るだけ増やさないまま、キー・ボードがあつた方が望ましくもある。外に方法は無いものか。さう考へ、AQUOSBluetoothのキー・ボードを使ふことを思ひついた。具体的なメーカーや型番は未だ確めてゐないが、大小色々、数千円程度…pomeraの半額にもみたい値段で買へるのもあり、中には折畳めるのもある。實際のところは手に持つてキーを叩いてみないと判らない。それにヨドバシカメラで實物を見て触つて、お小遣ひが惜しくなるかも知れないし、惜しくはならなくてもそれで呑みに行きたくなるかも知れない。なのでこの稿では結論は出さず、当面ふはふはした気分で架空の買物を樂むことにする。