暫く顔を出さなかつた呑み屋に行くと、品書きが細々変つてゐることがある。そこにこれまで無かつたお摘みが追加されてゐるのを見ると、興味をそそられる。呑み助はお酒に徹するタイプと、お摘みに惹かれるタイプがゐて、私が後者に属するのは間違ひない。
品書きにはアミレバーとあつた。レバーは別にある。アミがどうやらポイントらしいが、そのアミが何の意味か、よく判らない。レバーだからまづくはなからうし、店長の焼く腕も信用出來る。たれで一本、註文してみた。たれにしたのは臆病ゆゑだけれど。
薄切りの肉を巻いてあるらしい。ふはつとした口当りは惡くない。巻いた肉の膏だらうか、少しあまい。繰り返すが悪くはない。併し何とはなし、纏りに欠けてゐる感じもする。恰好をつけて味に一本、筋が通つてゐないと云はうか。
半分を囓つてから、残る半分にかろく、七味唐辛子を振つてみた。さうすると、ばらけ気味だつた味が、それなりに引き締つてきた。たれと(多分)膏の甘みを考へたら、粉山椒の方が、好もしいかも知れない。
たれがさうなら、塩はどうだらうと思つて追加した。成る程、見た目はたれより判り易い。歯応へもたれより稍、はつきり感じられる。とは云へ、レバーと膏が別の方を向いてゐて、落ち着かない。感心しない。
こちらも半分は、七味唐辛子で試してみた。しつくりこない。何がどうとは云ひにくく、こちらの舌の具合は、勿論あらうけれど、些か失礼ながら、下拵へも含めた焼き手の不馴れも、ありさうな気がされる。
いや併しまづくなかつたのは事實で、さうなると、私の舌に適ふかどうかが焦点だつたと見立てるのも、決して間違ひとは云へなくなる。第一印象が惡ければ、もう一ぺん註文する積りにはならないでせう。たれを食べ、塩を試さうと思つたのは、さういふ印象ではなかつたと示してゐる。
ならば改めて確める必要があらう。その場合、普通のレバーも併せて、たれ塩で比較せねば、お摘みに惹かれるタイプの沽券に関はる…と肩肘を張れば、疲れてしまふ。第一、そんな呑み喰ひは、呑み屋への礼を失する態度でせう。さう考へると、アミレバーの論評は六つかしい。實に六つかしい。