閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1455 酒席の最初が豊かなハムカツ

 ハムカツとは暫く御無沙汰してゐる。

 たつぷり食べたいとは思はないけれど、一枚か二枚あれば、酒席の最初が豊かな感じになる。

 ところでフライやカツレツの類は、何で味を調へるかが、六つかしい。

 ウスターソース。

 タルタルソース。

 醤油。

 味つけぽん酢。

 塩。

 デミグラスソース。

 マヨネィーズ。

 ケチャップ。

 チリーソース。

 鯵フライや牡蠣フライや玉葱フライやイカリングやミンチカツやコロッケやチキンカツの何と組合せるか、何を呑むか、好みは勿論、その日の体調や気分で、色々と変つてくるのは、寧ろ当然である。

 併しハムカツに限るなら六つかしくない。

 『ウスターソースと辛子』

 これが最良しにて唯一と私は堅く信じる。

 ではそのウスターソースと辛子をどうするか。

 こつちは中々六つかしい。

 ・ハムカツにウスターソースをたつぷりかけて、そこに辛子をぬる。

 ・ハムカツに辛子をぬり、そこにウスターソースをたつぷりかける。

 どちらかと思ひ、どちらも試した。

 その経験を踏まへた上で、最善手を云ふ。

 『ウスターソースに辛子を溶く』

 お皿の隅つこ(別の小皿でもかまはない)に用意し、そこにハムカツを漬けるのだ。

 廉な呑み屋で出すお刺身を摘む場合、山葵は醤油に溶く方がうまい…魯山人いはく、“山葵が感心出來ない時、これで醤油が美味くなる”さうな…あれと同じである。

 辛子は溶ききらない。

 辛みの濃いところと、うすいところを(意図して)作れば、ハムカツの味はひに変化をもたらせられる。

 さうですね、カレーライスを混ぜないで食べると、ルーとごはんと福神漬け(或は辣韮)を自在に組合せることが出來、味はひを変へられ…私はさういふ食べ方を好むのだが、詰りあれとおんなしである。

 さうだもうひとつ。

 ハムカツの主役は、“ハムの匂ひが沁みこみ潤びた衣”なのは、今さら改めるまでもないとして、ソースを別に用意すると、その潤び方を、好みで調へられる。

 まことに具合がいい。

 熱くて油つぽくて、鼻につんととほる香りを、麦酒でも酎ハイでもハイボールでも、洗ひながすと、酒席の最初が豊かな感じになる。