男と女がゐる。
終りを迎へるだらうふたり。
はつきりしてゐるのは、男…この唄の視点でもある…が女を眞冬の海に誘つたこと。
女が海辺で、"このままぢやあ、ふたり、だめになる"とだけ、呟いたこと。
風が吹く、たれもゐない冬の海で。
ただそれだけを小田和正は唄つた。
何があつたのか、終りを撰んだのはどちらなのか、これからふたりはどうするのか、何も解らない。幸福な出会ひと穏やかな日々があつたからこそ、別離の瞬間は悲痛であり…海風にさらされたその悲痛は、美しくもあるのかと思ふ。
昨今の事情はまつたく知らないが、かういふ想像を求める作詞術は、聴き手に(ある程度にしても)負担になるのと同時に…或はそれ以上に作詞者の手練手管が大事になる。思はせぶりは共犯関係が前提で、事情を知らないなりに、さういふ詞を書けるのも聴けるのも、少数派ではあるまいか。
學生の頃の友人がオフコースの熱心なファンだつた。その影響をどうも強く受けたらしく、わたしがオフコースを聴きだしたのは活動の末期からだが、その唄は今も耳に好もしく響く。たとへば「YES-NO」、「緑の日々」、「The Best Year of My Life」…挙げてゆくと切りがない。
かれらが解散した後、ひとりの唄ひ手になつた小田和正が出したアルバムが『K.ODA』で、この唄はその二曲目に収められてゐる。このアルバム自体がおそろしい完成度なので、すべての唄を順に触れるのが筋だと思ふのだが、今回は中でも一ばん好きなこの唄に話を絞つた。