半月ほど前に終つた。
全廿五話と三回の特別総集篇。
親愛なる讀者諸嬢諸氏はきつと、毎週を樂みに御覧だつたと思ふので、遠慮はしませんよ。
ソラから落ちてきた、記憶を失くした青年と、自分が何をしたいのか、摑みかねてゐる若ものが出会ふ。
かれらがゐる地球星に、怪獸が現れる。
何の前触れもなく、突然に。
地球星人は怪獸を知らず、出現自体、信じられない。逃げ惑ふ人びとの中、若ものと共にゐた青年が呟く。
「大きく、なれさうな気がする」
物語は幕を開けた。
若もの…コウセイから、ソラトと名附けられた青年には、記憶の断片がある。オメガといふ自分の名。次々現出する怪獸の名前と、その特性の知識を持つてゐるのがその證拠。
ソラト=オメガは、一度大きくなつたら、猛烈に腹が減るらしい。料理を得意とするコウセイの焼きそばや、カレーライスに夢中である。
そしてソラトは、地球星の常識には無知だから、自分が巨人=オメガと知られることに、危ふいくらゐの無邪気さで、頓着しない。コウセイはその無邪気を迷惑がり、時に振り回されつつ、かれと共に怪獸に立ち向ふ。
更に偶然の機會で、ふたりと知りあつた生物學者のアユムも、ソラト、コウセイのコンビから、アユ姉と呼ばれながら、怪獸対策に臨むことになる。
ここまでが導入部。
オメガ世界の地球星では、曾て怪獸は出現してゐなかつたから、いはゆる防衛軍は…兵器だけでなく、科學的なスペシャリストも…存在してゐない。さうなると、最初に鏤められた謎を、どうやつて解きほぐすのだらう。
オメガは何故、地球星に落ちてきたのか。
怪獸が突然現れた理由は何か。
そもそもオメガの正体は何なのか。
大体から第一話の冒頭、オメガはどこかの空間で、猛烈きはまりない闘ひ(おそろしく気合ひの入つた映像だつた)を見せてゐる。詰りさういふ敵…相手がゐるといふことか知ら。要するに、何にも解らない。
その不思議を横に置いて、前半は数多くの地球星人が描かれる。
傍迷惑な配信者。
奇矯なオカルト愛好會の聯中。
怪獸で一儲けを目論む金持ち。
神話的な怪物と心をかよはせる少女。
こまつたなあ。
かういふ物語で描かれる人びとは、戯画的に誇張されるのが常で、最後に挙げた少女は例外としても、観てゐて正直、尻が落ちつかなかつた。
ただこの(些かしつつこいと感じられた)人びとに、ソラトが触れたことが、後半の隠れた鍵にもなつた。必要だつたのは勿論、計算づくでもあつたのだな。
後半に入り、物語は一ぺんに、そして怒濤の展開をむかへる。怪獸に対抗する組織の設立。アユムの恩師であり、優れた科學者であるサユキの登場。サユキを中心に結成される怪特隊。ゲネスといふ種族。
そのゲネスの名の下に、“マドゥーク・オメガ”…即ちオメガ抹殺と、ゲネスの復活を叫ぶゾヴァラスが現れる(生身の凄いアクションを堪能出來る場面でもある)何が起らうとしてゐるのか。ソラトの頭の中で、烈しい痛みと共に、途切れてゐた記憶が蠢く。
驚いたことに、ソラから落ちてしまつたオメガを最初に助けたのは、ゲネスの生き残り、アーデルだつた。既に世にはゐないそのゲネス人の遺した映像が云ふ。オメガは宇宙観測隊の一員である。観測隊は文字通り、星々の文明を観測し、“目覚めの刻”と呼ばれる、怪獸の頻出と文明の崩壊に対抗する手だてを求めてゐる。ゆゑにかれらは、その星の文明に干渉しない。
なのに記憶を失つたオメガは、ソラトとして、ウルトラマンとして、地球星を護つてゐる。干渉してもらへなかつたゲネスは、滅びたのに。併しアーデルは、地球星の滅びを望んではゐない。かれがソラト…オメガに願ふのは、宇宙観測隊との一員して、ゲネスと同様に、地球星には干渉しないでくれ、ただそれだけであつた。何と悲痛な叫びだらうか。
時を同じくして、ソラトの前にソラト、いやオメガが姿を見せる。
私は、お前である。
本当だらうか。
古参のウルトラファンは、もしかすると、モロボシダン…ウルトラセブンの前に(幻覚のやうな姿で)現れた、セブン上司(仮)を聯想したかも知れない。
映像で見た限り、宇宙観測隊員はすべてオメガの姿をしてゐる。といふことは、ソラトとしての姿も同じではあるまいか。そのソラトではないオメガは云ふ。特定の生命に肩入れしてはならない。ソラトはオメガとなり…いやオメガへと戻り、サユキが命名した“ウルトラマン”を拒むに到つ(てしまつ)た。
さういふ事情を横に、地球星人は怪獸への対策を進めてゆく。進めざるを得ない。怪獸を制禦出來るゾヴァラスと、怪獸の能力を吸収するエルドギメラ。それらの細胞が、予測出來ない形で融合してしまつた結果、ゾメラが産まれてしまふ。醜惡にして兇暴、そして攻撃を受ける度、弱点を克服する超生物。
これが第廿三話までで、流石に不安になつた。
どこにどんな風に落し処を、用意する積りだ。
地球星人たちは、諦めない。これまでの知見と経験を活かし、ゾメラへの対策を進めてゆく。“目覚めの刻”だらうが何だらうが、そこにソラトはゐなくたつて、坐して滅びるわけにはゆかない。それにゾヴァラスとエルドギメラの弱点は(ある程度かも知れないが)解つてゐる。
その頃。ソラトはオメガと対峙してゐた。
観察を續け重ねて、最良の手段に辿り着くべきだ。
併し我われは、最良の手段を見つけられなかつた。
それは対峙だつたらうか。宇宙観測隊のオメガである自分と、怪特隊…コウセイやアユム、サユキと歩んできたソラトである自分との會話だつたとも考へられる。
正解は、無い。
無い中でソラトはオメガに対し、答は観測の結果を待つのではなく、探すものだと云ふ。それも正しいとは限らない。限らないがソラトは、観測隊員のオメガではなく、怪特隊のウルトラマンとして、コウセイと共にゾメラへ立ち向ふ道を撰んだ。
その戰ひで、ソラトは死ぬ。
コウセイも叉、命を落とす。
ちよつと、待て。
(不幸な)偶然にせよ、地球星人が生み出した怪獸が、ウルトラマンを倒すのか。(デストルドス化した)ウルトロイドゼロや、(アガムスに乗つ取られた)テラフェイザーでも、無理だつたのに。
思念となつたコウセイは、同じく思念化したソラトに云ふ。このままでは、終れないと。ソラトは応じる。ひとつだけ、方法があると。
ちよつと、待て。
これは“ウルトラマン”第一話の、基本的なフォーマットである。確かにコウセイといふキャラクタが、ソラトより“(我われが思ひうかべる)ウルトラマンに変身する地球星人”に似合つてゐたのは、そのとほりだし、コウセイもウルトラマンになるのだらうと、予想は出來てゐたけれど、それを最終回のクライマックスに持つてくるとは、脚本の妙に驚かされた。本当の意味でのウルトラマンオメガが、ここで姿を見せる。
ゾメラを倒して一年後。サユキは宇宙観測隊との會話の為、宇宙へと飛び立つ。コウセイはアユムと共に、怪獸対策の組織の一員となる。そこにソラトの姿はない。
「ソラトはきつと、どこかから、見てゐるよ。あいつは冷たいんだ」
残念がるアユムに笑ひかけたコウセイに、ソラトの暢気な聲がする。
「ひどいなあ。冷たいは、ないだらう」
ウルトラマンの姿になる為のメテオが、コウセイの胸元にさがつてゐる。ソラトは肉体を失ひ、その思念はオメガとして、メテオの中にあるらしい。ソラトは云ふ。
「宇宙観測隊員と、現地の生命体が融合するなんて、これまでに例の無いことだからな。きつと観察してゐるに、ちがひない」
ああさうなのか。“ウルトラマン”はコウセイに受け継がれたのだ…。
『ウルトラマンオメガ』を物語として観ると、意図は判らなくもないけれど…と云ひたい気にはなる。ソラトとなつたオメガが、地球星を護らうとする理由…これは全体の所謂テーマだつた筈だが、その点への踏み込みが弱いといふか、何と云ふか。もつと単純に、コウセイやアユ姉やサユキを好きになつて、でもよかつたんぢやあないか知ら。尤もそれだと、宇宙観測隊の使命との対比が弱々しくなりかねず…六つかしいねえ。
とは云へ、毎回が樂みだつたのは間違ひない。脚本や演出もさることながら、ソラト=オメガを演じた近藤頌利さん、コウセイを演じた吉田晴登さんが素晴しかつた点が大きい。ことに近藤さんは、惚けたソラトと冷徹なオメガの演じ分けが見事で、役者つてのは凄いものだなあと感嘆させられた。併せてスーツアクターの岩田栄慶さんが、叉とんでもなかつた。記憶を失つた(詰り戰ひ方も忘れた)オメガと、宇宙観測隊員であるオメガのちがひを、わづかな体の動きで見せたのだから、もうこれは藝の術と呼ぶ他に言葉がない。
コウセイとソラト、アユ姉、サユキ…さう、ウルトラマンオメガの物語は、續いてゆく。その姿はもしかすると、未來の始りを示す、“アルファ”なのかも知れない。