閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2021-01-01から1年間の記事一覧

682 仄かに澱む鍋焼き饂飩

滅多には無いが、鍋焼き饂飩を食べたくなる時がある。 何でせうね、あの感じは。 鍋焼き饂飩が目の前にあるとして、或は目の前にあると想像して、不思議なことに、お酒を求める気分にはならない。もつと云ふと酢のものや白身魚の煮つけは勿論、ごはんも慾し…

681 誕生日について

生きてゐる以上、年に一ぺん、必ず訪れるのが誕生日である。閏年の如月晦日生れが、どんな扱ひになるのかは知らない。如月念八日なのか、それとも彌生朔日か。そもそも戸籍の上で、二月廿九日生になつてゐるひとつて、どれくらゐの数なのか知ら。 かういふ話…

680 何とはなしの麻婆豆腐

美味しいとは思ふのだが、何とはなし、食べる機会を持てない食べもののひとつに、麻婆豆腐がある。 豆腐と挽き肉を炒め煮て、唐辛子と花椒、豆板醤などで味を調へた四川の料理。我が國での受容は、陳建民が日本風に味附けを工夫してからで、ざつと半世紀ほど…

679 点灯は順繰りに

この稿を公にする今日は月の半ばも過ぎてゐる筈だが、書き出したのは令和三年の長月晦日で、翌神無月朔日に、半歳續いた緊急事態宣言が解除される運び、その辺りなので我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には、頭の時間を半月ほど、戻しておいてもらひたい。 緊急事態…

678 未ダ定マラズ

この稿を書いてゐる時点では何も決つてゐないけれど、ちよつとした遊びの話が出てきた。出不精なわたしですら浮足立つた気分になつて、自覚の無いストレスのやうなものが溜つてゐたのか知らと思ふ。具体的なことは"未ダ定マラズ"だから触れない。但し触れて…

677 ワクチン記(余話)

小便の話で終らすのも何だし、折角でもあるから、もう少し續けませう。 廿三日廿四日はすつかり平熱。体の芯に熱が残る感じはしたが、勘違ひの可能性も少からずある。 副反応は予想してゐた通りに起き、覚悟してゐたほど酷くも長くもなかつた。個人差が大き…

676 カレー・ライスの肉を論ず

カレー・ライスには獸肉が欠かせない。 魚介のカレー・ライスも旨いよといふ聲も聞こえなくはないし、一概にまづいと云ひもしないが、シー・フードの穏やかと繊細はカレー・ライスの力強さ、圧力には些か物足りなさを感じざるを得ない。 牛肉。豚肉。鶏肉。…

675 二度目とその後~ワクチン記(終)

九月廿日(月) 晴れ。 雨は兎も角、ひどい蒸し暑さが我慢ならなかつた前週末十八日と、何故だか右膝が痛くて堪らなかつた十九日を経て、二回目のモデルナ摂取当日。 飲むゼリーもレトルトのお粥もスポーツ・ドリンクも万全だし、チョコレイトやカップ麺も買つ…

674 さくとざくの間

さくりさくりが天麩羅。 ざくざくざくがフライ。 擬音で云ふとそんなちがひだと思ふ。 どちらもディープ・フライ…たつぷりの油で揚げる点は共通してゐるのに、どこでちがひが出るのかと思つて、ざつと調べてみたら、要するに衣が異なるかららしい。 天麩羅は…

673 赤身

スズキ目サバ科マグロ属に分類されるさうで、詰り鯖や鰆の遠縁、鰹の親族で…鮪の話ですよ。鮪の字はサカナ偏に有ルと分解出來て、日本かつお・まぐろ漁業協同組合が運営する[かつお・まぐろぽーたる]によると、有に含まれる月が眼目らしく、月の字の源は肉と…

672 次を待つ~ワクチン記

九月二日(木) ふと気になつて、自衛隊の大規模接種予約ページにアクセスをしてみる。 地域番號。 券の番號。 生年月日。 この三点が必須の情報になるのだが、"予約出來る日程が無い"とエラーが返つてきた。 大規模接種の予約は二回分をひと纏めにするから、…

671 曖昧映画館~陰陽師

記憶に残る映画を記憶のまま、曖昧に書く。 この映画の舞台は、怪異が人びとの隣にあつた時代。 平安の頃、惡霊や鬼は、疫病や天災と同じく現實的な問題であつた。佛教がもてはやされたのは、悟りなどの観念ではなく、土着の(宗教的な)技術では効果が薄まつ…

670 漫画の切れ端~スケバン刑事

記憶に残る旧い漫画の話。 十台終りの数年、少女漫画に熱中した時期があつた。川原由美子や山口美由紀、坂田靖子、柴田昌弘。中でも和田慎二は別格で、『スケバン刑事』をかれの代表作のひとつに挙げても異論は出まい。 前提は滅茶苦茶である。 主人公の麻宮…

669 好きな唄の話~冬の二人

男と女がゐる。 終りを迎へるだらうふたり。 はつきりしてゐるのは、男…この唄の視点でもある…が女を眞冬の海に誘つたこと。 女が海辺で、"このままぢやあ、ふたり、だめになる"とだけ、呟いたこと。 風が吹く、たれもゐない冬の海で。 ただそれだけを小田和…

668 葱と天かす生卵

この一文をものしてゐる現在、外でめしを喰ふのは憚られる。流石に石を投げられる心配は無いけれど、何とはなしに遠慮しなくちやあならない気分や雰囲気がある。ひとりでふらつと、麦酒ともつ煮と串焼きで半時間呑むくらゐなら平気だらうと理窟は浮びはして…

667 画像が無いマカロニ・サラド

常用のスマートフォンではカメラの機能を使つて、食べたもの飲んだものを冩す習慣があるのは、以前から何度か触れてゐる。お行儀が惡いのは知つてゐるのだが、習慣になつてしまつたし、記憶の代用でもある。なので今から止めるのは中々六づかしい。我が親愛…

666 海内無双に義理を立て

大根おろしがうまいと自覚した切つ掛けは、尊敬する丸谷才一の随筆で何度か、その旨さを讚へてゐたからで、天麩羅屋は大根おろしを存分に食べられて嬉しいとか、湯上げした鰰を、大量の大根おろしと醤油で食べる幸せだとかを讀んだからにちがひない。鰰はハ…

665 曖昧映画館~トゥルーライズ

記憶に残る映画を記憶のまま、曖昧に書く。 アメリカは時々、莫迦ばかしいくらゐの大金を掛け、信じ難い手間暇を掛けて、とんちきな映画を撮る。ジェームズ・キャメロンがアーノルド・シュワルツェネッガーと組んだこの映画を、その一本…寧ろ代表格に挙げて…

664 漫画の切れ端~クレイジーピエロ

記憶に残る旧い漫画の話。 戰争は終つた、らしい。 どちらが勝つたのかは、判らないけれど。 伝説がある。 道化師の姿で、長剣をふるふ、銃を持つ兵隊より速く強いたれか。 或はなにか。 それがピエロ。 高橋葉介が最初に考へたのは、多分それだけで、その伝…

663 好きな唄の話~番外篇

この稿では一回につき一曲、出來るだけ別のひとの別の唄を取り上げるのを原則にしてゐる。なので全体で完成してゐるライヴ・アルバム…たとへばディープ・パープルの『LIVE IN JAPAN』や佐野元春の『HEARTLAND』、甲斐バンドの『PARTY』…は中々あげにくい。こ…

662 途中経過~ワクチン記

八月念四日(火) 晝に買置きの飲むゼリーを試す。 まづくないのはいいとして、"スポーツ・ドリンク味"つて何だらうと思ふ。 午后に入つて左腕(ワクチンを射つた方)を持上げると、やや重く感じられる。 検温三度、いづれも平熱。 八月念五日(水) 朝検温、微熱(…

661 雲

スマートフォンのカメラ機能は撮つた後、色々と弄れるのが便利でいい。生眞面目な愛好家に云はせたら、きつと邪道の樂みなのだらうが、それはそつちの都合である。わたしとは関係が無い。 勿論カメラに較べて機能が及ばない部分は少くない、といふより、(生)…

660 懐かしの酒席

厚揚げはたいへん便利だと思ふ。焚き合せていいし、炒めものに入れるのも旨い。厚揚げ自体がうまいのは勿論、出汁やら調味料、あはせる様々な食べものの味まで巧みに受けるからだと思へる。 鶏肉と青菜と厚揚げを薄味でさつと焚いたのなんて、嬉しいですな。…

659 接種初回~ワクチン記

八月念一日(土) 副反応がどうなるか解らないし、何が必要になるかも判然としないまま、スポーツ・ドリンクと飲むゼリーを買ふ。 即席のソップは買置きあり。 軟かくて甘い麺麭、おにぎり、レトルトのお粥やカップ麺の類もあつた方がよささうに思つたが、そつ…

658 お好み焼タイム・マシン

お好み焼の話を書かうと思つた。かういふ場合、わたしは先づ、現代のお好み焼のご先祖さまはいつ頃、生れたのかをざつと調べることにしてゐて、どうやら戰前の一錢洋食と呼ばれた駄菓子がそれらしい。小麦粉を水で練つて、薄く延ばし焼き、ウスター・ソース…

657 予約まで~ワクチン記

六月十日(木) 区報にて接種予定に就て通知あり(ファイザー) 六月十二日 両親、一度目の接種との報せ(モデルナ) 六月廿日(土) 接種券を郵送で受け取る。 但しこの時点で予約開始日は未定。 七月廿日(火) 区内の接種受付開始、直ちに埋る。 七月廿六日(月) 接…

656 曖昧映画館~ダイ・ハード

記憶に残る映画を記憶のまま、曖昧に書く。 クリスマスの夜、カリフォルニア。 完成が間近いナカトミ・ビルディングをひとりの男が訪れる。ジョン・マクレーンといふニュー・ヨークの警官。高所恐怖症のかれが、大嫌ひな飛行機に乗つてまでやつてきたのは、…

655 好きな唄の話~ワダツミの木

初めて耳にしたのはいつだつたか、兎に角驚いたのは忘れ難い。今になつてその驚きの理由を詳らかにするのは六づかしい。こんな唄もありなのか、と思つたのは間違ひない。 曲調も歌詞も、所謂ポップス、或はバラッドとは呼びにくい。民謡や演歌の類でもなく……

654 漫画の切れ端~"ドカベン"のシリーズ

記憶に残る旧い漫画の話。 大勢ゐる世の中の漫画家でふたり、時系列も出版社も無視して、何をやつてもかまはないと思へるひとがゐる。ひとりは松本零士。もうひとりが水島新司で、どうやら水島の漫画は、"ドカベン"にほぼ、集約されるらしい。多少曖昧な云ひ…

653 伝統にも義理を立てて

この稿を書き出した今、陰暦では既に立秋から半月くらゐ過ぎてゐるから、お暑う御坐いますなと云つていいのかどうか、残暑お見舞ひとでも云ふのか知ら。尤も本來ならこの時期は、頬を撫でた風が涼やかだねえとか、池に浮んだ月の蔭が秋のやうだつたよとか、…