閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2020-01-01から1年間の記事一覧

490 麦酒を下さい

内田百閒は冬の麦酒を好んだといふ。"味が引き締つてうまい"のださうで、そんなものなのかなあと思ふ。[たいめいけん]の初代は常温…温めた麦酒を好んだらしい。温かい麦酒が旨いのかどうか。確かに醸造の中でお湯を通しはするけれども。エセーの中で初代は、…

489 ポテト・サラド呑み屋

廉な呑み屋で外れ(る心配の少)ないつまみと云へば、煮込みとポテト・サラドが双璧である。わたしは大体の場合、どちらかを註文する。両方同時に註文したことはない。煮込みとポテト・サラドを同時に註文すべきではないといふ規則があるわけでなく、自分にさ…

488 胡椒を削つて

先日、近所の定食屋で"鶏肉と茸の黑胡椒炒め定食"といふのを食べた。實に判り易い名附けだから、その辺の説明は省略して、鶏肉よりその脂を吸つた茸の方がぐつと旨かつたことは特筆しておく。 ところで普段なら品書きに"胡椒"とあつたら敬シテ遠ザクのが習性…

487 本の話~予告篇

過日、やうやく『梟の城』(司馬遼太郎/新潮文庫)を讀み了へた。耻づかしながら初讀である。 久しぶりに、本当に久しぶりに、小説を讀む昂奮を存分に味はへた。 率直に云つて手放しの賞讚は出來ないけれども、それはそれである。なので"本の話"で取り上げたい…

486 カーテン・コール

独りで呑みに行くのに躊躇ひを感じない。小さなお店の暖簾(があれば)をひよいとあけて 「よ御坐んすか」 さう聲を掛けて、どうぞと云はれたら、隅の方に坐る。乃至立つ。それでたとへば金魚を下さいなど註文をすればよい。金魚は大葉と唐辛子をあしらつた焼酎…

485 うつかり(續々)

併しレンズは肴にするより使ふのが本來である。お酒を四杯呑んでなほ余裕があつたわたしは撮れるものなら何枚か撮る積りになつて、ふらりと歩いた。夕方の残照が間もなく夜にならうとする時間帯は、ひとの動きの緊張がほぐれてゆく時間帯、盛り場が目を覚ま…

484 うつかり(續)

前回の[うつかり]で、パナソニック製レンズを入手したと書いた。時系列で云ふと今回はその直ぐ後になる。一体わたしはカメラに関はる何かしらを買ふのに慎重で、ひとつには慌てて手に入れなくても、平気ぢやあないかと考へるからなのだが、それ以上に購つた…

483 うつかり

結論を先に云ふと、パナソニック製のG14ミリ/F2.5レンズを買つたのが、うつかりである。衝動買ひではない。以前からあればよからうと思つてゐて、この手帖でもなんどか触れた記憶がある。Ⅰ型と呼ばれる旧式の方。Ⅱ型は外観がちがふだけで、中身は同じださう…

482 アンテナのあつち側

夕焼けのアンテナのあつち側では "帰ってきたウルトラマン"が 怪獸と闘つてゐる 今

481 ふはふは

前回の[マイコン]で中古でhpのパーソナル・コンピュータを買つたと書いた。買つて使ひ始めて、思つてゐたより常用してゐるau版のAQUOS sense3で、十分ではないにしても、どうにかなるものだと気が附いたから少々戸惑ひを感じてゐる。今のところ、外附けのハ…

480 マイコン

中學生の頃はマイコンと呼んでいた記憶がある。或日父親が突然買つた。日本電気のPC8800系統だつたと思ふ。曖昧な記憶だが、BASICで記録媒体はカセット・テイプを使つてゐた筈だ。その何年か後に自分でも買つた。EPSONが出してゐたNEC互換機。MS-DOSの3.0だ…

479 無精式の豆腐

蒸し暑くなると食慾が減退するのは毎年のことで、それを何で實感するかと云へば、お米を炊く機会がぐつと減る。 (まあ今日は麺麭でエエか) 麺麭が豆腐になることも素麺になることもあつて、詰りさういふ気分を感じると、(わたしにとつて)一ばん厭な季節が始…

478 本の話~番外篇

手元に『アメリカ素描』といふ本がある。新潮文庫。著者は司馬遼太郎。奥附を見ると平成元年四月廿五日に第一刷。同十年九月晦日に廿三刷となつてゐる。単行本は昭和六十一年に讀賣新聞社から發行された。定価は消費税別で六百九十二円。尤もわたしは古本で…

477 煮玉子を追加して

普段は進んでラーメンを食べには行かない。そんなら蕎麦や饂飩の方がいいと思ふ。ラーメンがきらひなのではなくもつと単純にどうでも宜しい。併し繰返すときらひではないから偶には食べたくもなる。普段ではないのだから矛盾してゐることにはならない。それ…

476 汁で呑む

お酒…この稿では日本酒に限ることにするが、そのお酒を呑む時には食べものが慾しくなる。さうでもないよと云ふひともゐるだらう。友人の頴娃君はそつちに属してゐて、腰を据ゑて呑みだすと何も食べなくなる。平気なのかなあと不安になるが、その不安は措いて…

475 隧道

吉田健一に『旅』と題された短い随筆がある。要するに旅行に出たいと書いてあつて、末尾に"旅行がしたい"とあるのだもの、わたしの要約は間違ひでも乱暴でもない。かういふ一文は非常に迷惑で、こちらも旅行に出たくなる。出無精な身なのに。 そこで甲府に行…

474 定食、また

前々回、気に入りの定食屋で久しぶりに食べたことを書いた續きである。何故かと云ふと中華風肉豆腐定食をやつつけながら目にした"日替り"定食の献立に、鶏とピーマンの甘味噌炒めとあるのに気附いたからで (こいつを食べない法はないといふものだ) と思つた…

473 活用

今どきの若ものには想像が六づかしいと思ふが、昔…四十年近く前、世間の片隅にエロ映画館といふのがあつた。エロチックな場面のある映画の意味でなく、文字通りのエロ映画で、ポルノ映画、ピンク映画とも呼ばれてゐた。にっかつロマンポルノと云へば、聞いた…

472 定食

家の近所に小さな飯屋がある。晝間は定食、夜はちよつとした呑み屋。まあよくある営業形態だと思ふ。それが諸々の事情で晝のお弁当と夜の持帰りになつて、夜はもとから足を運ぶ機会が少かつた(小さなお店だから禁煙なのである)から我慢出來るとして、晝の定…

471 シグマについて

最初に買つたカメラはキヤノンのEOS1000QDで、EF35-80ミリレンズが附いてゐた。その後にシグマの70-210ミリを手に入れた。シグマを撰んだのはEFレンズより廉価だつたからで、70-210ミリにしたのは第一に素人が陥る"望遠レンズ"指向にわたしも陥つたからで、…

470 本の話~がんらい何をしてもいい

『居候匆々』 内田百閒/福武文庫 がんらい何をやつてもいいのが小説で、併しさう云ひだすと何だか落ち着かない。とは云へ何とか定義附けを試みたところで、例外は幾らでも出てくるだらうし、その内定義そのものより例外の方が多くもなりかねず、千年も経てば…

469 ライカM4-2のこと

昭和五十一年にライカ社からM4-2といふ機種が發表された。昭和五十三年から五十五年にかけて、一万六千百台が造られた。ざつと確かめた限り、Mバヨネット・マウントのライカでは最も製造期間が短く、また台数の少い機種である。 この時期のライカは会社とし…

468 れんげ盛り

焼飯にウスター・ソースをかける。 醤油ラーメンに酢や辣油を垂らす。 といふのはお行儀の惡い食べ方である。週末の午后に家で食べる分にはかまふまいが、さうでなければ、詰りお店で食べる場合は、實行しない方が無難であると思ふ。 ただお店の焼飯…こつち…

467 うで玉子ふたつ

ふとその気になつて、たぬき蕎麦を啜つた。東京風の揚げ玉を散らしたやつ。立ち喰ひ蕎麦の種ものも色々とあるけれど、蕎麦でやつつけるなら、たぬきが一ばん気らくに思はれる。牛蒡の掻き揚げや春菊の天麩羅だつて惡くはないにしても、蕎麦つゆに対して些か…

466 変格不便

ライツ社のレンズにデュアル・レンジ・ズミクロンといふMバヨネット・マウントのレンズがある。『ライカポケットブック』(デニス・レーニ/田中長徳/アルファベータ)を参照すると 附属のゴーグルを附けることで十九インチまでの接冩が可能になり、パララック…

465 本の話~巨山に挑む

『ツァイス 激動の100年』 アーミン・へルマン(著)/中野不二男(訳)/新潮社 レンズ好き冩眞好きにとつて、第一等のブランドと云へばツァイスである。ライツ・ライカにも優れたレンズがあるのは勿論だし、ニコンにも豊かな伝統があるのは認めつつ、矢張りツァ…

464 魅惑ののり弁

普段のわたしは言葉の省略を好まない。たとへばデジカメではなくデジタル・カメラ、或はパソコンではなくパーソナル・コンピュータ。特にカタカナ言葉の場合、省略した表記は要するに符牒であつて、それは何も意味しない。元の意味と略された表記を結びあは…

463 出し月かも

阿倍仲麻呂。八世紀のひと。貴族で政治家で文人。祖父に阿倍比羅夫を持ち、系譜には安倍晴明がゐるといふが、こちらは怪しい。遣唐使として渡唐。帰國に際して開かれた宴席で詠んだと伝はるのが あまの原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも の一…

462 未完成のまま

特別急行列車に乗りたいと思ふ。 どこに行かうといふのではなく。 元來わたしは出無精な男である。麦酒と煙草、お米とお漬物、それから気に入りの本があれば、外に出なくても平気なたちなのだが、だからと云つて何がなんでも外に出たくないのではない。外に…

461 取り込みと取り出し

この手帖をちよいと休む事にした。 おほむね月水金曜日に更新をしてきたが、話の種がどうも不安になつてきたからである。實に判り易い事情でせう。こんな場合に素人といふ立場は有難い。併しそれだけだと何だか安直な態度と思はれる。安直なのは事實だから、…